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ゲームシナリオ・ボイスドラマ制作Ⅱ
お題「夏祭り」
『君との夏祭り』著:水無月ジュン

登場人物
・葵(あおい)十五歳
 祭りに目がない。毎年の夏祭りを非常に楽しみにしている。

・玲奈(れいな)十五歳
 祭りの屋台が目当て。かなりの食いしん坊

あらすじ
 年に一度の町内夏祭りを心待ちにしていた葵(あおい)と玲奈(れいな)。
 祭りの喧騒に充てられて、二人は射的などの遊びから屋台の完全制覇などに全力を費やしていく。

本文

〇 夏祭り会場  
SE 和太鼓の音
葵 「今年もまた祭りが私の前にやってきた!」
玲奈「別に葵のためにやってるわけじゃないでしょ」
葵 「わかってない、わかってないよ!」
玲奈「何がわかってないって?」
SE 葵が玲奈の肩を掴む音
葵 「祭りってのは楽しむ人のものなんだよ!」
玲奈「その理屈で言うと、あたしのものでもあるわけだけど」
葵 「玲奈は屋台しか興味ないじゃん!」
玲奈「食べ物屋台だって祭りの一部。普段とは違う空間で、普段より格別に美味しいものを食べる。これも祭りの醍醐味」
葵 「うぐっ」
玲奈「わたあめ、たこ焼き、フランクフルトにチョコバナナ。葵だって好きでしょ?」
葵 「当たり前だよ! 祭り好きとして外せないラインナップなんだから!」
玲奈「まあ、来た以上は完全制覇目指すけどね。ここに来てそれを目指さないのは祭り素人のすることだし」
葵 「さすが私の親友! 玲奈にもお祭り女子としての血が流れてるんだね!」
玲奈「いや、そういうのじゃないから。半ば諦めてるだけだから」
葵 「祭りという空間に身を委ねるというわけだ」
玲奈「どっちかっていうと身投げの方が心象的には近いかな」
葵 「祭りに生き、祭りに死ぬと」
玲奈「ダメだ、こいつ。どんなにネガティブ言ってもポジティブに変換してくる」
葵 「祭り少女はポジティブでいないと!」
玲奈「魔法少女のニュアンスで言うな」
葵 「アニメを作ってこの祭りをPRするとか」
玲奈「頑張れ。あたしはやらんけど」
葵 「よし、射的やろう!」
玲奈「話題転換もいいところだな。いいけどさ」
SE コルクの発射音 
玲奈「おっ、三連チャン。今年はノーコン卒業か」
葵 「去年まではずっと悔しい思いをしてきたからね。家で練習は続けていたんだよ」
玲奈「たまにポンポン聞こえていたのはそれか。普通に近所迷惑だったわ」
葵 「お祭りは賑やかにやらないと意味がないでしょうに」
玲奈「時と場所は選んでくれる? テスト期間の時とか最悪だったから」
葵 「授業聞いてれば大体覚えるし、家で勉強とかしたことないなー」
玲奈「これだから天才肌ってのは。射撃の腕以外はだけど」
葵 「褒めても景品のお菓子しか出せないよ!」
玲奈「褒めてないから、皮肉だから。しかも出るのか」
葵 「チョコミントとイチゴどっちがいい?」
玲奈「こんなクソ暑いなかでチョコを景品に置くやつのセンスを疑うわ」
葵 「せっかく提案して採用されたのに…………」
玲奈「いたよここに」
葵 「じゃあ二つともあげるね」
玲奈「今の話の流れでよく二つともあげようとしてるな。貰うけど」
葵 「カレーライス無料券は二人でシェアして使おうね」
玲奈「生まれて初めて葵が親友でよかったと思うよ」
葵 「…………ということは、今まで親友でいたくなかったとか?」
玲奈「あ…………あんなところにたこ焼きがあるなぁ。早食い競争と行こうかぁ」
葵 「体よく逃げようとするな! 早食い競争はやるけども!」
SE たこ焼きの焼ける音
玲奈「はい、あたしの勝ちね」
葵 「こ、こんなはずでは…………」
玲奈「自分が猫舌に生まれた不幸を呪うんだな」
葵 「無理にでも一気に口の中に放り込んでおけば…………」
玲奈「そうなってたら無理にでも止めてたよ。この後食べるのに差し支えるし。それに…………」
葵 「それに?」
玲奈「葵と一緒に楽しめなかったら意味ないでしょ」
葵 「れいちゃん…………」
玲奈「…………はぁ。言わせないで、こんなこっぱずかしいこと」
葵 「さすがマイベストフレンド!」
玲奈「急に抱き着くな。暑苦しい」
葵 「それは私の心が今盛大に燃え盛ってるからだよ!」
玲奈「じゃあ氷水でもぶっかける? ちょうど近くにラムネが売ってるし」
葵 「おお! 今度はラムネ一気飲み対決を所望と」
玲奈「別に対決とは言ってないけど」
葵 「ラムネ屋さ~ん! 二本くださいな!」
玲奈「そして相変わらず人の話を聞かないな」
SE ラムネの中でビー玉の揺れる音
葵 「買ってきたよ~!」
玲奈「どうも」
葵 「はいスタート!」
玲奈「ちょっ」
葵 「んぐんぐんぐ」
SE ラムネの中でビー玉の揺れる音
葵 「ほい、私の勝ちっ!」
玲奈「相変わらず炭酸への耐性がえぐいな」
葵 「数ある私の自慢の一つ、喜んでもらえたかな?」
玲奈「子どもじゃないんだから、そんなことで喜ばないよ」
葵 「そんな!? 町内会のおじちゃんたちは喜んでくれるよ!?」
玲奈「あの人たちは葵大好き勢だからな。基本的に何やっても喜ぶよ」
葵 「この間の宴会で裸踊りに混ざろうとしたら止められたけど?」
玲奈「それはおじさんたちの英断だな」
葵 「私の踊りは見るに堪えないってことなのかな」
玲奈「いやもっと別の問題があるから」
葵 「ソーラン節なら見てくれるかな」
玲奈「あ~うん。もうそれでいいわ」
葵 「?」
玲奈「次は何食べる? 急がないとあっという間に時間来ちゃうけど」
葵 「わたあめ、りんご飴、金柑飴!」
玲奈「飴尽くしだな」
葵 「その後はチョコバナナ!」
玲奈「飴の直後だと苦くない?」
葵 「だったら、そこにカレーを挟もう」
玲奈「フランクフルト買ってカレーを付けて食べるのもあり」
葵 「なるほど! その発想は抜けてたよー」
玲奈「トルネードポテトでさらにトッピング」
葵 「カレーだけで満足出来そうなクオリティだね」
玲奈「焼きそばはどのタイミングで食べるべきか…………」
葵 「焼きそばは取り置きしてもらってるから、落ち着いたら食べるって手もあるよ」
玲奈「でかした」
葵 「もっと褒めてくれてもいいんだよ?」
玲奈「あ~すごいすごい」
葵 「急に対応が雑に…………」
玲奈「あまり調子づかせないためだな」
葵 「私褒められて伸びる子なのに」
玲奈「供給過多で爆発しとき」
葵 「酷い!」
SE 和太鼓の鳴る音
葵 「そろそろ打ち上げ花火の時間だね。結局全部は回れなかったかぁ」
玲奈「田舎の祭りって言っても屋台の数は結構あるし、金銭面も考えるとどう考えても無謀なんだけどね」
葵 「いいじゃない、夢はでっかく持たないと!」
玲奈「叶うかどうかは別問題だけどな」
葵 「大人になったら出来るかな」
玲奈「えっ、もしかして大人になっても祭りに来るつもり?」
葵 「れいちゃんは来ないの?」
玲奈「…………」
葵 「…………」
玲奈「…………一人だったら来ないかも」
葵 「なら、私が誘えば万事解決だね!」
玲奈「…………そうだな」
葵 「約束する。毎年必ずれいちゃんを迎えに行くよ」
玲奈「わかったよ」
SE 花火が打ち上る音

(了)