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 魔法技術が目覚ましい発展を続ける世界。魔導書作家の青年トリスは魔導師である父の都合で大物魔導師ガラの屋敷へ居候が決まり、貴重な経験だと期待を寄せる。だが彼の父が真に望んだのは、屋敷で門番を担う少女リサに息子の出不精な生活を改めさせる事だった。家を出ずに済むからと作家になったトリスは、何かと運動に誘ってくる陽気なリサを敬遠。家主たるガラには逆らえず渋々付き合うが、遠慮のないリサに対して苦手意識を抱く事に。
 連日不慣れな生活を強いられたトリスは、無愛想だが気の利くメイドのエスタに好感を抱き交流。彼に同情したエスタから強引さを指摘されたリサは、トリスの興味を惹こうと手法を改める。彼女が父の依頼で自分を構うのだと考えるトリスはリサを邪険に扱うが、リサはあくまで彼の健康を案じていると弁明。トリスは彼女の厚意を認め、片手間ながらも彼女の誘いへ自分の意思で応じるようになる。
 二人の友好を望ましく思ったガラは、雑用を口実にトリスとリサへ二人での外出を許可。仕事柄屋敷外に顔見知りの多いリサの慕われぶりに、トリスはある種の憧れを抱く。一方、トリスの名を知る魔導師の多さにリサは彼の仕事ぶりを知り、尊敬の意を公言。気を良くしたトリスは特別に彼女の為に魔導書を書くと申し出るが、意に反して辞退されてしまう。稀な善意を挫かれた彼は臍を曲げるが、後にエスタが彼にリサの事情を説明。リサは常人の一割しか魔力がなく、魔法が使えない体質の持ち主だった。トリスはリサへの仕打ちを自戒し、リサも彼を平然と許すが、自分だけ魔法が使えない疎外感を吐露する彼女の姿に、トリスはどうにか出来ないかと思案。だが彼はガラを訪ねた別の魔導師から仕事の依頼を受けてしまい、やむ得ず仕事へ専念する事に。
 働き詰めのトリスに遠慮したリサは運動の誘いを控え、交流の機会は一気に激減。露骨に落ち込む彼女を案じたエスタは、トリスに協力を申し出る。元々エスタとリサはガラに拾われた孤児で、度々リサの陽気さに救われていたエスタは恩返しの機会を探していた。トリスは彼女の手を借りて仕事を進める一方、息抜きを口実にリサとの交流を再開。彼女の気遣いを実感したトリスは恋心を自覚すると、自分が作家を志した経緯を明かすのだった。父に憧れて魔導師を目指し、挫折の末に努力を諦めたトリス。それでも憧れは捨てきれず、出不精なりに藻掻いた結果が作家の道だった。リサは彼の藻掻きを「格好良い」と評し、その言葉からトリスはリサを救う策を思いつくが、またも父の都合で帰郷の日付が迫ってしまう。
 エスタの協力で依頼を完遂するも、リサの願いを叶えるには時間が足りない。だがなお諦めぬトリスの奮闘を評価したガラが、時を歪める大魔法で彼を支援。帰郷前夜に魔導書を完成させたトリスはそれをリサへと贈り、言われるがまま魔法を使った彼女を驚かせる。トリスが出した救済策とは、リサの魔法行使に必要な魔力消費を自身が賄う事。契約魔法を使いそれを実現した彼はそうまでする訳をリサに問われるが、告白に恩情で応えてほしくないトリスは作家のプライドだと誤魔化し、好意を告げぬまま屋敷を去ってしまう。
 後日。故郷で仕事に励むトリスのもとへ、ガラの使者としてエスタが来訪。屋敷の運営に支障が出るからとガラはトリスに屋敷での生活を要求し、その好条件に戸惑うトリスへ、エスタはリサの落ち込みぶりを明かす。告白せずに帰った事を卑怯だとエスタに罵られたトリスは、自分の努力が報われた事を歓喜。リサへの告白を果たす為、エスタと共にガラの屋敷へと戻るのだった。