時々見る、この夢。真っ白い部屋の壁に身体を預けているだけの夢。窓はないのにとても明るくて、風もないのに空気が澄んでいる。誰もいない。音もしない。そこにあるのは満たされない、虚無の心を持つ自分という物体だけ。白いつなぎを着て、空間の一部、芸術作品のように何もせず、じっと壁を見つめるだけ。
昨日も同じ夢を見た。ただ一つ、いつもと違うことがあった。
人が、いた。自分しかいないはずのあの部屋の中に、もう一人、向かい合うように壁の前に立っていた。
何かの暗示なのか。
初めてのことで、夢から覚めたとき、何がなんだかわからなかった。それでも、この人は害を与えることはないと、それだけは感じた。
事実、その人は何をすることもなく、ただ私をじっと見つめていた。私の目を、答えを探すかのように、何かを見つけようとしているかのように。
なぜかその人の容姿を思い出すことはできない。一つだけ覚えているのは、私を見つめていたあの目。何かに飢えている子供のような、何かを諦めた老人のような、そんな目だった。
でも男なのか女なのかさえ思い出せないその人は、その時初めてあったのではないと思う。昔なのか最近なのかもわからないけど、あの目をどこかで見た気がする。
あの不思議な目は、一度描いてみる価値がある。
寝間着のまま、髪も寝癖のまま、約三年前から使っていない部屋へと入っていった。
埃をうっすらと被ってはいるが、道具は使えそうだった。白いキャンバスを立てかけて、真新しい木のパレットに絵の具をのせる。
久しぶりに筆を取ると、使われずに放置されていたパレットが可哀想に見えて、また毎日絵を描こうかと思った。美大を卒業してから、約三年ぶりの作品だった。
雨の音が外から聞こえて、休みの日なのに憂鬱だと愚痴らずにはいられない。それでも筆を動かしていると、雨粒の叩きつける音さえも芸術的な音楽作品に聞こえないこともない。
虚無の心を抱えて、約二年。理由はきっと、忙しすぎる毎日の中では、満たされていた心が重荷だったから。気づいたら心の中は虚無で満たされていた。とても軽い、虚無の心。満たされていた心は、どこかに消えていた。
今日は一日中これを描き続けるだろうから、昨日考えていた大掃除もできない。それでもいい。この目は、特別なものだろうから。今描かないと、忘れてしまいそうだから。
黒目を描いていたとき、ふと思った。この目、この人が、満たされていた心、自分の求める心なのではないかと。
それに気づいた瞬間、約二年ぶりにあの重さが帰ってきた。
心が満たされていく。
忙しい毎日の中に、いつの間にか消えたと思いこんで、その重ささえも無視していたあの心が、解放されていく。
美大生だったあの頃の、無邪気な社会の荒波を知らない自分が、戻ってきた。
真っ白だったこの世界に、今、色が戻ってきた。