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「おまたせしましたー」
 注文していた料理が運ばれてくる。操作していた携帯をポケットに仕舞って目の前の食事にする。湯気が立ち上りゆらりと揺れるうどん。手前に置かれて机の隅の箸箱から一善取り出す。
 同時、腰のポケットから振動が感じてきて、先程仕舞ったものを取り出した。
「お、きた」
 友人からのメール。
 いつものように陽気な文章。こちらに到着したとの文面を見て、自身がいまいる場所を書いて返信する。再返信はかなりの速さだった。
 ほぼ同時と言ってもいいほど。了解の文を確認して、改めて食事を開始してうどんをすすっていく。
 
 それはまたも友人の一言で始まった。
「なあ、鎌倉いかねぇ?」
「ほざけ」
 友人が俺の家へ遊びに来ていた時のこと。一緒にゲームをしていたら隣にいたそいつがそう言ってきた。
「一応、なんで?」
「暇だから」
「パスだな」
「えーなんでー」
「それこっちの台詞な。なんで鎌倉?」
「いやーなんつうか仏像を見たくなってさ」
「まえもそんなこと言ってなかったか……?」
「言ったかもしんないけど、それだとつまんないだろ」
「行くんなら一人でいけよ。結構遠いんだから、電車賃もかかるんだよ」
「えー」
「今回は流石に嫌だ」
「うまいもんとかあるぞ」
「なにがあんの」
 終始徹底して行かないことを心に固く決めていたのに、食べ物につられるのは本当に情けなかった。そこから揺さぶりを掛けられ自身の心がゆらゆらとしてきたところで、俺が折れるまでこのままこの調子で誘い続けるだろうと思い至り、またもや一緒に行くことにした。
「奢ってやるぞ」
 なによりその一言で揺れに揺れ捲って、結局奴に付き合う形になっている。
 食べ物が絡むと自分を見失う現状は非常によろしくない。何事も自制心を持って動かなければ損するのはいつだって自分だというのに。

 友人が来て、一緒にうどんを食べて店を出るとそいつは真っ先にアイスクリーム屋へ寄っていった。自身が動くよりも先に素早い事。
 どうも食べ物に期待を募らせていたのは自分だけではなかったようだ。
 ブルーベリーのモノを二人一緒に買って、そのまま歩きながら食べていく。途中でフランクフルト等もあったのでそれも一人一本ずつ。
 しばらく歩いていると、屋台のようなものがちらほら出ているのが見えてきた。チキンステーキやリンゴ飴、金平糖など様々なモノが売られており、誘惑してくるものが多くて困ってしまう。
 だが俺たちが行くのはその先、鳥居をくぐった後の神社に用がある。
 屋台に行くのは友人の目的を早く終わらせてからである。
 友人にここでしばらく待つように言われ、更に奥へ奥へと入っていって消えてしまった。
そうして待っていると、友人はすぐに出てきた。
「もう終わったのか?」
「うん、そうだね。目的はもうすませたし屋台回ろうか」
「うい」
 同意して友人の後についていく。あっさりと終わったことに意外に思いながら、それでも自分には関係ないと投げ打った。元々自分は鎌倉には食べ物目当てできていたのだ。友人の目的などは二の次。
 屋台のものを腹いっぱい食って家に帰って寝ることが今日一番の幸せとなる。
 しかも今日は友人のおごりである。無理言って突き合わせたことを悪く思っているのか知らないがお言葉に甘えといたのだ。
 友人本人も乗り気のようで、何を食べるのかもう自分よりも先に決まっているようだった。

「あー腹いっぱいになったー」
「お腹苦しい……」
「ありゃ食べ過ぎだよ」
「いやーうまかったから」
 凡そ2時間。屋台の食べ物を気のすむまで食べ歩いて、鎌倉を練り歩いて疲れ始めた頃。自身の腹の限界がちかづいていることに気付いて帰宅するべきかまよっていると友人が自分よりも多く食べており、しかもまだ食べるということに驚きながら、今回ここに来た目的というものをちゃんと聞いていなかったことを思い出した。
「なあ今日ここに来た目的って何なん?」
「あれ、行ってなかったっけ?」
「うん」
「いや、ただ神社みに来ただけだよ」
「はあ?」
「いやー実はさ、また課題やり忘れてさ、なにしようか迷って神社を取材することにしたんだ。神社って結構知らないこと多いしさ」
「えーたったそれだけ……」
 またもや学校の課題をやり忘れたのか、休みの間にしっかりと済ませておかないからこのようなことをしなくちゃならなくなる。友人のサボり癖に困ったものだ。
 しかしであるが―――
「なんで今日おごってくれる気になったんだ? つーかなんでそんな金持ってたんだ?」
「引き下ろしてきた。いや単なるお詫びだよ。無理言って付き合せちゃったし。俺も腹減ってたしね」
「あんま理由になってないような」
「いいのいいの。今日は楽しかったし、良かったとしましょうや……」
「……まあおれも美味しいもの食えたしいいんだけどね」
「食べ過ぎっていうのは変わらないんだけどね。今度はそっちが奢ってよ」
「……いや、いいけど」
 その後は二人一緒に電車に乗ってそれぞれ帰路に着いた。