読書設定

文字サイズ

背景色

フォント

方向

【日本の首都は? と問われたら日本国民は全員東京と答えるだろう、日本国民のみならず日本の事を少しでも知る海外の方も東京と答える可能性が高いと思われる。
だが遷都 つまり政府の機能が移動したのは約百五十年の事で、それ以前の政府が置かれていた場所 それが京都である。
日本の古き文化は全て京都に詰まっていると言える、勿論古き文化だけではなく様々な文化を取り入れ発展を続けている。
てかむしろ日本の文化の全ては京都にありつまり日本とは京都であり京都とは日本であるから東京は一刻も早く京都に遷都するべきであり……】
「――これ後二十ページ位全部似たような内容っぽいですね」
 手に持っていたパンフレットの内容を読み上げるのを止めそのままゴミ箱に投げ入れる、同時に耳に付けているイヤホンから女性の声が聞こえてきた。
『何ですかこの狂気的な郷土愛……どこで貰ったんですかこれ?』
「駅に着いた時に【京都を再び日本の顔に!!】ってプレートを抱えた人から押し付けられました」
『何で読もうと思ったんですか?』
「いや面白そうじゃないですか」
 イヤホンからため息が聞こえ、呆れたような声で話が再開される。
『伸二君のその気楽な性格は今に始まった事ではないので別にいいんですけど、何で京都に来たのか忘れてはいませんよね?』
「分かってますって、任せてください」
 辺りを見回し、話が聞こえる範囲に人が居ないか確認してから話す。
「心霊スポットの調査 ですよね?」

 電話の相手 篠原冬華先輩は俺の高校時代の先輩で、そしてオカルトライターだ それもその道ではかなり有名な。
 先輩は霊感がとても強く その手の場所に行くと必ず何かが起こる、その体験をそのまま書き写真等を付ける事で他とは一線を画すリアリティが売りだ。
 俺はその取材に高校時代から何度か付き合っていた、理由は二つ 一つは部活動が強制の学校に入学し、先輩が部長のオカルト研究部唯一の部員だった事。もう一つは俺に霊感が全く無い事だった。それだと意味がなさそうだが 先輩曰く「二人の霊感が混ざって丁度いい位の霊障になる」らしい……ナイフが飛んできたり、ベッドに二回から突き落とされそうになるのは丁度いいとは到底思えないが。
 そう言った理由から取材に協力していたが、今回みたいに俺だけが現場に来るというのは初めてだ。
「そう言えば何で先輩来れないんでしたっけ?」
 先ほどより五割増しで大きいため息を吐きながら先輩が答える
『京都の街は霊障が強すぎるんです、千年を超える歴史はその分だけ深い闇があるんですよ。私が直接向かうと最悪命に関わります』
「あぁ、そうでしたね いやー恐ろしい」
『……本当に真面目にやってくださいね?これは正式な仕事なんですから』
 先輩の口調が若干不機嫌な物に変わる、俺も慌てて真面目な口調に切り替える。
「勿論です、しっかりと調査をして完璧なレポートをしてみせますよ」
『そう言う事はラーメン店から視線を外してから言いましょうか』
 やらかした、胸ポケットに入れたスマホのカメラから俺の視界に近い光景が先輩に見えている事を忘れていた。
「いやほらせっかく来たんだから名物を一つ位」
『調査を終わらせてからにしてください!』

『タクシーの濡れ女 と言う都市伝説は知っていますか?』
 電車を降り、目的地に向かって歩いてる途中先輩がそんなことを聞いてきた。
「深夜タクシーに乗った女性が途中で消えて 座席が濡れているってアレですよね。それが今から行くスポットに関係してるんですか?」
『ええ、その都市伝説の発祥地と言われているのが今から行く深沼池です』
「発祥地ですか、流石京都 都市伝説まで生み出しているとは」
『他にも付近の病院の患者が大量に入水自殺をした、と言う都市伝説もありますが一番は タクシーの都市伝説ですね。今でもタクシーは池の付近には絶対に近寄らないとか』
「あ、もう着きますね」
 普通の街並みの中にその池はあった、濁り切った水に浮かぶ藻を見ると池と言うより沼と言う言葉が似合う。晴れているはずなのに池の淀んだ空気が辺りを曇らせている様だった。
「これは、確かに如何にもな感じが……」
 そう言っている途中である物に目が留まった。
「あのー先輩」
『どうしました?もしかして何か見つけ…』
 先輩も同じものを見つけた様で、言葉が途切れた
「タクシー、普通に休憩してますね」
 池の横の道路にタクシーが停まっていた、しかも二台。
『そう、ですね……』
 気まずい沈黙が訪れる、タクシーの運転手は煙草を吹かしながらラジオを聞いている様で完全にリラックスしていた。
「いやでも雰囲気は完璧ですし、ほら近くに病院とかも」
『次、行きましょうか』
「はい」
 先輩の落ち着いた、しかし強い口調に抗えず反射的に肯定してしまった。
 イヤホンから聞こえてくる『あんなのは違う』とか『次は大丈夫』等の小声で呟かれる呪詛を聞こえないフリで流しながら池を後にした。

『応仁の乱はご存知ですよね?』
 先輩の質問に俺は完全に沈黙する、自慢ではないが歴史の成績は2だった、十段階で。
『……日本人なら誰でも知っている非常に有名な戦の事です』
「言葉に棘を感じるんですが」
『その主戦場の一つとなったのがここ、船岡山です』
 俺の発言は完全にスルー、説明が続けられる
『他にも戦の敗者を処刑する刑場になったり、近年でもパトロールをしている警官がナイフで刺され その後奪われた銃で射殺される事件も起きています』
「それは何というか……凄まじいですね」
『ええ、京都千年の歴史の中で最も血を吸った土地かも知れません。今でも自殺体が見つかったり 謎の足音が聞こえる等、もしかしたら今も血を吸い続けてるのかも』
「恐ろしい話ですね、でも先輩」
 辺りには程よい勾配の道 豊かな緑 散歩する近隣住民。
「完璧に近隣住民の憩いの場ですよね」
『血を吸った台地も今は憩いの場、しかしその陰では今も惨劇が…… と言うのも悪くないと思いませんか?』
「先輩、視点がライターじゃなくて作家になってます」
『ライターと言うのは事実をそのまま書く存在ではないんです、己から見た世界を書く存在であって』
「あ、猫だ」
 茂みから黒い猫が出てくる、最近は野良猫を見る機会も減った様な気がするから少し新鮮な気分に
『伸二君、そのまま』
「はい?」
『そのまま、止まってください』
 先輩の言葉を受けて静止した、猫は辺りをキョロキョロ見回している。
『ゆっくり、足音を立てずに近づいて下さい。後何も喋らないで』
 イヤホンから何度かシャッター音が聞こえ 小さな声で『ネコ、イイ』『モット、チカクデ』とか言う若干言語能力を失った発言も聞こえてくる。
 ――そう言えば先輩のスマホの待ち受け猫だったっけ
 足音を殺して忍び寄る、が所詮は素人の物で野生の世界で生きてきた野良猫には通じる訳もなくある程度近づいたら茂みの奥に逃げてしまった。
『あぁ?!』
 先輩の悲痛な声が聞こえた、余程残念だったんだろう。
「すみません、出来る限り音を立てなかったんですが」
『…………いえ、猫 特に黒猫は不幸を告げる存在として知られていてこの様な場所で見つかると言うのは何かと前兆かと思って詳しく観察しようとしただけであって』
「先輩って何かを誤魔化そうとするとき平静を装いながら少し早口になりますよね」
 そう言うと先輩は少し唸った後いつもの雰囲気に戻る。
『行きましょう、早く』
「はいはい」
  
 その後道なりに進んでいき、頂上に着いた。
「大して登ってない様に思いましたが、京都を見渡せる程度には高いんですねここ」
 予想よりも雄大な景色に少し心が弾む、だが返って来た声は俺とは逆に不機嫌だった。
『ええ、いい景色ですね。求めてる物とは違いますけど』
 そう言えばここは都市伝説スポットだった、余りに何もなさ過ぎて普通にハイキングでもしてる気分になっていた。
「あー、そうですね 猫居ませんもんね」
『だからあれはあくまで調査の一環として』
「お、三毛猫」
 イヤホンの向こうからガタッ、と慌てて立ち上がる様な音が聞こえてくる。
「……先輩?」
『いえもしオスだったら学術的な価値があると』
「せめてオカルトと結び付けましょうよ」
  
「下山する間も何もありませんでしたね、ああいや猫がもう一匹」
『報酬減らしますよ?』
 理不尽すぎる脅しに慌てて話題を変える。
「次はどこに向かうんでしたっけ?」
『ええ、レンタカーを借りてください』
「レンタカー?車が必要な場所なんですか?」
『はい、次に行くのは京都最恐の心霊スポット』
 そこで少し溜めて、声のトーンを下げてその名を告げた
『清滝トンネルです』
 
 レンタカーを走らせながら、イヤホンからスピーカー通話に切り替えたスマホから説明が始まる。
『清滝トンネルには特別なエピソードが複数あります』
「飛ばしてきますね、流石最恐スポット」
『トンネルの上が処刑場だった事と 性的暴行を受けた女性がトンネル付近で自殺した、と言うのは信憑性が高いですね』
 ――信憑性のある都市伝説って何なんだろうか
『そして怪奇現象の多さ 内容の重さは他の追随を許しません』
「そこまでですか……」
『ええ、ここからは私の指示に従ってください。下手な事をして霊を刺激したら伸二君でも命が危ないですから』
「はい、肝に銘じます」
 先輩が俺に対してここまで言うのは普通ではない、それほど危険なんだろう。
 
 日も落ち始めた頃、とうとうトンネルの前に辿り着いた。
「ってあれ?トンネルに信号?」
『ええ、ここは一車線のトンネルなんです。元は線路になるはずが途中で車道に変わったせいでそうなりました』
「なるほど、じゃあ今は青だから行っても」
『ダメです!!』
 アクセルを踏もうとしたら大声で静止される、驚いて逆にアクセルを踏みそうになったが辛うじてズラせた。
「大声出さないで下さいよ!逆にアクセル踏むかと思いましたよ」
『それはごめんなさい……でも着いた時に青だった場合は行ってはダメなんです』
「何でですか?もしかして青と赤が逆なんですか」
『いえ、そうではなくて。着いた時に青 と言うのは呼ばれているんです』
「呼ばれてる?って何に?」
 間を置いた後、低い声で先輩が呟く
『霊に、ですよ』
 言葉が出なかった、普通なら一笑に伏すんだろうが相手はこの道のプロだ。そのプロがここまで真剣に言うのだから余程の事なんだろう。
『信号が一度赤になって、その後再び青になったら行ってください』
「わかり、ました」
 心に何か重たいものを抱えたまま、静かに信号を待つ。
 信号が赤に変わった、ただの赤信号だと言うのに不気味に感じるのは場の雰囲気のせいだろうか?
 かなり長く感じられた赤信号の時間が終わり、再び青信号が点く。
『もう大丈夫です、行ってください』
 車を出発させる、アクセルが重い気がするのはきっと気のせいだ。
 
 トンネルの中は暗くオレンジ色の光でぼんやりと照らされている、カーブを描く形状のせいで先はあまり見えない。
『ガラスと周りの音に注意を、異常が起こるとしたらそこです』
「具体的に何が起こるんです?」
『ケースが何通りかあるので……多分よく聞くパターンの物が多いと思いますけど』
「そこは断定して欲しかったなー」
 会話を続けながら進んでいく、が目に見えた異変は起こらない。異常な音も、ガラスに纏わりつく何かも現れない。
「……何も起こらないですね」
『気を抜かないで、いつ来るか分かりませんから』
 先輩の声は真剣だった、それと対照的に俺の声には笑いが混じり始めていた。
「案外何もなく終わるんじゃないですか?これまでみたいに」
 不安が遠ざかって行った事の反動だろうか、テンションが上がっている。いや、無理矢理上げていたんだと思う。
『そうだといいんですが……』
「いや絶対そうですって!たかがトンネル程度で何か起こる訳ないでしょう?」
『伸二君、少し落ち着いて下さい。最後まで何が起こるか分からないんですから』
「心配性ですねぇ、もう出口はすぐそこですよ?」
 少し離れた所に出口が見える、相変わらず異変も起こっていない。
「自分一人で来たのは間違いだったかもしれませんね」
 出口に差し掛かる、薄暗いオレンジ色の光の中からすっかり暗くなった外に抜けだ
 冷たい 突然そう感じた。
「ッ?!」
 首筋に濡れたタオルを押し付けられたような感覚だった、普通ならただの悪戯だ 一人で運転している車の中でなければ。
 自然と足がブレーキを踏んでいた、タイヤがきしむ音が鳴りながら急停車する。
『どうかしました?!伸二君?!』
 スマホから先輩の声が聞こえる、ブレーキ音があっちにも届いたみたいであちらも大分焦っている。
「今、何か、首筋に、冷たい感触、が」
 声がうまく出ない。
『他に何か異常は?!』
「他は、何も……」
 気付く、気づいていしまう。先輩の声以外に聞こえてくる音があった。
 
 
 ひた ひた ひた ひた ひた ひた ひた ひた ひた ひた ひた ひた 
 ひた ひた ひた ひた ひた ひた ひた ひた ひた ひた ひた ひた 
 ひた ひた ひた ひた ひた ひた ひた ひた ひた ひた ひた ひた 

 水が垂れる様な音が断続的に聞こえてくる。
「音が……ひた ひた ひたって音が」
『すぐにそこから逃げて!!!!』
 アクセルを全力で踏み込み、車が激しく音を立てて発車した。
「なん、なん、ですかあれ」
 うまく動かない口から無理矢理言葉を絞りだす、体が震えているのはアクセルを全力で踏んでいるのとは違う理由だろう。
『何かに憑かれたんです!音と冷たい感触は?』
「感触は、えたけ、ど音が、まだ」
 先ほどより周期は長くなったがそれでもひた ひたと言う音が聞こえる。
『スピードをなるべく落とさないで!カーナビで今から言う場所へのルートを検索してください!』
 震える手でカーナビを操作する、震える手で操作しづらいのがもどかしい。
『目的地は、安井金比羅宮!』
 何度もミスしながら入力する、入力し終えた後ルートが表示された。
『……落ち着きましたか?』
「いいえ全く?!」
 かなりのスピードで走行している筈だが音は一向に止まない、増えることもないが。
『話せる程度には回復しましたね、今から向かう安井金比羅宮の説明をします』
「そんな事よりアレ何なんですか?!どうすればいいんですか?!」
『安井金比羅宮に着けば解決します、ですがその前に事故を起こされたら終わりですから。落ち着くためにも説明を聞いて下さい』
「そう言われても……!」
『……大丈夫』
 先輩の声がとても優しいものに変わる、聞いてるだけで安らぐような安心感がある声だった。
『伸二君は何度も経験を積んでいます、落ち着きさえすれば何の問題もありません。私が保証します』
 強張っていた心が少し解れた気がする、震えが少し収まっていた。
「……説明を、お願いします」
 音は止まない、でもその恐怖が気にならない程安心できる人がすぐそばにいたのを忘れていたみたいだ。

『安井金比羅宮は簡単に言うと神社です』
「……あ、わかった。そこに心霊現象を全て解決してくれる人が居るんですね?!」
『いえ、そんな寺生まれみたいな人はいません。安井金比羅宮は縁結びと縁切りの神社です、悪縁を切って 良縁を結ぶ パワースポットとしても有名ですね』
「まさかそこでアレとの縁を断ち切れと?」
『察しがいいですね、その通りです』
 どうしよう、とんでもなく不安になってきた。
『私の師匠はこれで一回難を逃れました』
「実証済み?!」
『とにかく、その神社の中にある縁結び縁切りの碑をくぐって下さい。それで逃れられるはずです』
「不安要素多いけど分かりました!」
 やるしかない、先輩が信じて任せてくれた仕事をやり遂げないまま終わる訳にはいかない。

 カーナビが目的付近に着いた事を告げた、それを聞いて覚悟を決める。
「じゃあ、行ってきます」
『……まだ取材は残ってますからね?』
「分かってます、じゃあまた!」
 車を神社の前に停めて全速力で走り出す、ひた ひたと言うあの音も近づいてくる。
「あれか!」
 白い紙が大量に張られた大岩が見える、その根元にある穴に
「いやまって割と小さい?!」
 人一人は普通に通れる、が一旦しゃがんでから通る必要があるだろう。
「ッ?!」
 首筋に冷たい感触が来た、それはまるで人の手の様に俺の首に巻き付き、段々と締め上げてくる。うまく息が出来ない。
「い、ける!」
 締め上げに耐えながら上半身を穴にくぐらせる、通り抜けた瞬間首に巻き付いた感触が消えた。がその感触はすぐに右足を締め上げてきた。
「いい加減に…」
 無事な左足を振り上げる、そしてそのまま
「…しろぉ!」
 右足の少し奥に振り下ろす、すると何かに当たった感触がして 右足の締め付けが緩むと同時に全力で引き抜いた。
 体が地面に叩きつけられる、痛みと疲れで呼吸がうまくできない。呼吸を整えて起き上がるとある事に気づいた。
「……音が止んだ?」
 あのひた ひたと言う音が止んだ、あの締め上げでくつ冷たい感触もいない。
「助か、った?んだよな」
 助かった、その事実を少しずつ認識していった。
「助かった!助かったんだ!!助かったぞ!!」
 助かった事実を笑いながら大声で叫ぶ、傍から見たら狂人か何かと間違われたかもしれないが そんな事を気にせずに助かった事をひたすら喜んだ。
 
 一通り叫んで冷静になった後、車 それもレンタカーを適当に路駐していた事を思い出して慌てて回収しに行く。幸い誰にも見つからなかったようで、無事に回収することが出来た。だがもう一つ忘れていた事があった
『で、助かった後人に報告もせず狂喜乱舞していたと』
「その通りです……」
 先輩に報告するのを忘れていて、現在運転席で正座させられていた。
『私は狂ったような笑い声と意味不明な叫び声を聞いててっきり発狂でもしたのかと思いましたよ』
「いや発狂なんてするわけ」
『してみますか?』
「大変申し訳ありませんでした」
 声のトーンが本気だった、ふざけたら本当にひどい目にあうことは容易に想像できる。
『まぁそれはもういいです。問題は、アレを蹴ったんですね?』
「ええ、無我夢中で蹴りを入れたら怯んでその隙に助かりました」
 先輩が少し唸った後考える様に黙り、しばらくしてまた口を開いた。
『良いニュースと悪いニュースがあります、どちらからがいいですか?』
「……良い方からで」
『伸二君は霊障に対する自力の抵抗手段を身に付けました』
「え?!ホントですか?!」
 これで更に先輩の助けになれ
『悪い方のニュースは伸二君も霊感を持ってしまいました』
「は?」
『それもかなり強めの』
「は??」
 霊感?俺に?
「俺に霊感はなかったんじゃないんですか?」
『霊感が後々になって目覚める例は一応ある、そして霊障に直接干渉 それも蹴るなんて強い干渉はそれ相応の霊感の持ち主にしかできません』
「それってつまり残りの取材は……」
『キャンセルに決まっているでしょう?』
「そんな!……それじゃあ」
 俺のせいで先輩の仕事がダメに……?そんなの
『もう十分すぎる程ネタも集まりました、早く戻ってきてください』
「え?ネタ?」
『ええ、霊感のない人間が京都で霊障に襲われて強力な霊感を手にする。これがネタじゃなくて何なんですか?』
「つまり……俺がネタになると」
『平たく言えばそうですね。タイトルは……』
 少し考えた後、先輩は言った
『【京都異暗旅行記】でどうでしょうか?』