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基礎文章作法 テーマ:カフェでの待ち合わせ
『女装男子とTSっ子』 著:白銀マトン

 桜の花びらが綺麗に彩り始める頃、僕は親友の咲橋智哉に呼び出された。
 つい先日までは電話で呼び出していたくせに、今日はL I N Eを使っての呼び出しだった。いつもそうであってくれ、と本気で思う。
 僕は桜の花びらが舞っている河川敷を一人で歩きながら、そんなことを思い溜息を一つ吐いた。
 もう少しで目的地だと思った次の瞬間、僕のスカートが強い風に煽られて、はためいた。
 思わずスカートを左手で押さえると、周りに誰も居ないことを確認して、ホッと息を吐く。
 河川敷を抜けてすぐの所に、僕たちがよく利用している喫茶店がある。
 客が少ないのか静かで落ち着いた雰囲気があり、メニューも美味しい物ばかりなので、お気に入りなのだ。
 店のドアを開けると、聞き慣れた鈴の音が僕の入店を告げる。
 中に入り店内を見渡すが、まだ智哉は来ていないようだった。
 黒い長髪の女の子がいるだけで、他には誰も居ないようだ。僕たち以外の客がここに居るとは、珍しい。
 少し気になってその子を注意深く見てみる。
 黒い長髪に合わない翡翠色の瞳、整った顔立ちはアイドル顔負けと言った感じだ。しかし、服装はユニ○ロのジャージ姿という様子だった。外出の時にジャージを着ている人が、智哉以外にも居るとは思わなかった。
 っと、いけないいけない。いくら気になったとはいえ他人なのだから、こんなマジマジと見つめちゃダメだろう。
 頭を振った僕はその子の座っている席を通り過ぎるようにして、別の席に座ろうとした。
 すると女の子は、
「ちょっ、待て待て待て待て!」
 と話しかけてきた。甘い声音でこんなに可愛いのだから、オシャレをすればモテるだろうに……なんでジャージなんだろう、この子。
 僕は仕方なく彼女の方へと向き直り、言った。
「何か御用ですか?」
「いや御用も土用も、俺だよ俺! 智哉だよ!」
「は?」
 彼女の言葉に、僕は耳を疑った。だって智哉は普通の男の子だったのだから。
 しかしそう考えると確かにそうなのかもしれない。ジャージで外出している時点で、疑うべきだったか。
「で? その智哉君……いや、智哉ちゃん? はどうしてそうなってるの?」
 僕が小首を傾げてそう言うと、智哉(仮)は無い胸を張って言い放った。
「朝起きてたらこうなってた! 後は知らん!」
 僕は溜息を吐いた。そう言えば智哉はこういう奴だった。
 そしてそんな僕に、智哉は更に言い放った。
「という訳で、女装のプロであるお前に服を選んでもらいたい!」

(了)