放課後、下駄箱で待っていると瞳がやってきた。
「で、どこに行きたいの?」
「特に決めてないけど」
「なら、私に着いてきなさい」
そう言って先を歩く瞳の後ろに着いて行った。
すぐに「横に来なさいよ」と言われ、瞳の隣を歩く。
少しの間お互い無言で歩いていたが、瞳が口を開いた。
「まだ、先生のこと好きなんだ」
その言葉に足を止めそうになる。なんとか歩きつづけるが歩く速度が落ちたのはわかった。
「いや、なんとも思ってない……から」
「それは昼休みに嘘ってわかったから。ふーん、小学一年から長い恋ね」
ピアノを辞める? なら、出て行くんだな。もう顔も見せるな。
「……もう振られたようなもんだし」
「本当に? 諦めてはないんでしょう?」
「諦めるとかじゃないって」
「いいじゃない、ピアノ再開したんでしょ」
瞳の言う通りだ。ピアノを再開した今、先生と会ってもいいのかもしれない。
なんて考えていると、
「軽い奴ね」
と、心の中を見透かされ、なんとなく頭をかいた。
「昼休みの時もだけど、俺って分かりやすいのかな」
「まーね、アホね」
「なんか口悪くなってない?」
なんとなく最近の話し方ではなく、小学生の時の話し方に戻ってるような気がする。いや、確実に戻ってるな。
「気遣ってあげてたの。ピアノ辞めて先生とも疎遠になってさ、それでピアノの話を振らないようにしてたのに巽は無神経に話してきたし」
瞳は目を細くして睨んでくる。
「わ、悪かったよ」
「まあいいわ、こうして巽とデートできるようになったし、結果オーライね」
「これってデートなのか?」
聞くが、瞳には俺の声が聞こえていないらしく何かつぶやきだした。
「自分でこんな吹っかけたけど、チャンスなんだよね、これ。昔みたいに先生しか見てないわけじゃないもの」
途中から小声になっていったためよく聞こえなかったが、何やらチャンスらしい。
「さ、行きましょう」
「どこに行くんですか?」
俺たちの後ろから、最近よく聞いている声がした。
「決まってるでしょ? ホテ……ル」
「朽木じゃないか」
振り返ると、すぐ近くで朽木が立っていた。
瞳は舌打ちをした後に振り返る。
「あー、あんたね」
不機嫌そうな声を出す瞳に対して、朽木は特に気にする様子はなくこんなことを言う。
「もしかしてデート中ですか?」
それを聞いた瞳の態度はすぐに変わり朽木に抱きついた。
「そーなのぉ! 分かってるじゃないちびっ子ちゃん!」
「いきなりなんですか離してください!」
「おおっ」
二人が戯れている間、俺はどうにかしてスカートの中を覗いてやろうと考えていたが、その視線に気づいた朽木が睨んできたので即刻やめた。