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 俺の地元に商店街と呼ばれる場所はなく、テレビでしか見たことがないし、行ったこともない。
 だから少し憧れがあるそんな場所に、突然行く機会が訪れた。
 幼馴染の智子と鎌倉の海に訪れ、一通り堪能した後駅に向かう途中で智子が「小町通い
りに行こう」と言ってきた。
「小町通り?」
 聞いたことのないその名称を聞きなおすと、智子は目を輝かせながら頷いた。
「美味しい食べ物がいっぱいある商店街だよ!」
「へぇ、商店街か」
 美味しい食べ物にも興味はあるが、それ以上に商店街という場所に行きたい。
 もちろん行くことに同意し、俺たちは小町通りへ足を運んだ。
「ああ!」
「うおっ、何だよ急に」 
「あれあれ!」
 智子が飛び跳ねながら指差しているのは、正直学生が食べるのには厳しい寿司屋だった。幸いなことに回転ずしだったのだが、その辺にある百円寿司とは違い、まぐろやサーモンは二百円だ。
 だが、今の手持ちを考えると腹一杯に好きなものを食べることはできない。
 それは智子も分かっているだろうと思っていたのだが、
「入ろ!」
「お、おいおい!」
 智子は足早に寿司屋に入ってしまい、俺も入りざるを得なかった。
「らっしゃい!」
 店内の客は多くもなく少なくもなかった。
 テーブル席に着きすぐに目に入ったメニュー表を見て、思わずため息を吐いてしまった。
「いただきまーす」
 と、俺がメニュー表を見ている間に智子は既にまぐろとほたてと鯖を取り、食べ始めいた。
「それで六百円か……」
 そう考えると皿に手が伸びない。
「どったの?」
「いや、俺はゲソにしとくか」
 そう言い目の前まで流れてきた百円のゲソを手に取り、一貫ずつ食べていく。
「えぇ、寿司屋まで来てゲソ~?」
「い、良いだろ別に、安いんだし」
「……別にいいけどさ、せっかくなんだから好きなモノ食べなきゃ」
 そう言った後、智子は新たにホタテを取り、大きく口を開けて食べた。それを見ながら食べるゲソは何とも言えない味になっていた。
 
 
「お寿司美味しかったねー」
 智子はにこにこと腹を撫でるようにして俺の隣を歩いていた。
 寿司はあまり食えなかったが、ここから小町通りで美味いもんを食べよう。と、思っていた矢先、
「おっ」
 左に見えた男梅味のソフトクリームの旗が気になり、智子に了承を得ることなく店の中に入って行った。
「ま、待ってよ!」
「すみません、梅ソフト……智子は?」
「私も!」
 注文をしてから二分ほどでピンク色のしたソフトクリームを手渡された。
 それを智子はさっそく口に含み、「ん~!」と、顔をしかめた。
 俺もすぐに食べ、
「すっぱ!」
「すっぱ!」
 ソフトクリームにしても梅は梅だった。
 その後の俺はというと、智子があらゆる店に入って行き食べている様子を近くで見ているだけだった。
 ソーセージを食べ、お茶を飲み、大福や油揚げも。
「よくそんなに食べれるよな」
 半分呆れながらそう言うも、智子は誇るように胸を張った。
「まあね、あっ、犬だ!」
「お、おい」
 観光客であろう女性はとても大きな白い犬を連れて歩いており、それを見つけた智子はその犬に駆け寄った。
「可愛いですね」
「ありがとう、お嬢ちゃん。そちらは彼氏?」
「えっ!?」
 智子は俺を一瞥した後、しどろもどろになりながら、また俺を見る。
「か、彼氏……じゃない、よね?」
 なんてことを聞いてきた。
「ああ、彼氏じゃないな」
「あら、そうなの? お似合いなのに」
 女性がそう言うと、タイミングよく犬がワンっと鳴いた。
「メテオもそう言っているわ」
 犬の名前に突っ込みたかったが、隣でもじもじとしている智子が気になりそれどころではなかった。
「それじゃ、頑張ってね」
 女性はにこりと笑って、先を歩いていった。
「……お腹減った」
「はぁ? まだ食うのか?」
「お腹減った!」
 智子は怒り口調でそう言い、来た道を戻っていった。俺はすぐに智子の横に並び、どうしたのかと様子を見ていた。
 何を怒ってるんだこいつは。
「またアイス食べたい、梅もバニラもブルーベリーもシロップのもゆずのも」
「あ、ああ、別にいいけど」
 それから智子は色々な店のソフトクリームやらアイスやらを食べ歩きまくっていった。
 俺はそれを見るだけで、別に食べたいと思わなかったし、商店街を歩けただけでよかった。まあ、少し理想の商店街とは違ったけど。
「でも不思議だよな」
 俺は智子に語り掛けるようにそう呟くと、思惑通り智子は食べるのをやめこちらを見てくれた。
「何が?」
 まだ何か怒っているのか不機嫌な声で聞かれる。
「結構歩いてるはずなのに疲れてないなぁって、ちょっと思ってな」
「あ、確かに」
「どうしてだろうな」
「わ、私は」
 智子は俺の目の前に立ち、少し顔を赤くしながら、
「君とだったから、かな……なんて思ったり、してなくも、なかったり」
「お、おう」
 なんて恥ずかしいことを言えるんだこいつは。てっきり上手いものを食べてるからとか言ってくるものだと思っていたから、戸惑ってしまう。
「お、俺も、かな」
「え?」
「智子と同じ意見」
 そう言いながら、怒られるのを覚悟で智子の手にあるソフトクリームの最後の一口を食べた。