揺れる電車の中でつり革に掴まって耐えながら、携帯をいじって時間を潰す。ゲームや最新のニュース、目的地に着くまで色々したがすぐに飽きてポケットにしまってしまう。隣の友人は自分のものを取りだす前から携帯で遊んでいるが、飽きる気配はなくつり革に揺られながら画面を眺めている。暇になった自分と比べ随分と楽しそうで、話しかけるにも躊躇してしまう程。
この暇な時間をどうしたものかと悩んでいると、電車のアナウンスが聞こえてきてもうすぐ目的地とのこと。
これで暇をつぶす必要はなくなったと少し息をつき、画面に集中している友人に声をかけて気づかせる。
「もうすぐ着くぞ」
「お」
やっと画面から視線を変えた友人は携帯をポケットに入れて、降りる準備をし始めた。終わるときは結構あっさりであったのに少し驚いて、電車が減速し始めたのを気づいてドアのそばに移動していき開くのをじっと待った。
――――――
改札を抜け駅から出ると左手に橋が見えた。その下に電車が通っていて自分たちはそこで降りていたらしく、先程の電車が未だ停車しているところだった。
遅れて改札を抜けて出てきた友人は、
「喉が渇いたからそこの店でジュース買ってくる」
と言って改札の横にある店に入っていってしまった。
仕方ないので、自分はこれから向かう場所への道を携帯のマップ機能を使って調べ始めた。
切っ掛けは友人の一言だった。
「なあ、博物館いかねえ」
「ああ?」
友人の家に遊びに行っていた時のこと。ベッドで携帯をいじっていた友人はおもむろにそう言って、僕にパンフレットを投げてよこしてきた。
「?」
「東京国立博物館、そこでさ見たいものがあるんだよね」
「何? なんでいまさら?」
「いやさ、自由研究の課題なんだがまだやってなくてさ……」
「は? 夏休みもうすぐ終盤だぞ。やる暇ないだろ」
「そうなんだけど……でも要領いい俺としてはすぐできると思うんだよね」
「どっからく来んのその自信。つーか最初からやっとけよ」
自信満々に言ってのけた友人の顔に焦った様子はなく、台詞と同様のものがそこに現れている。しかしそれは実際可能であり、できて当然と言わんばかりのその友人なら課題などものの数日で片付けてみせるだろう。友人のハイスペックさに舌を巻きながら、「だからなぜやっとかないのか」と疑問に思う。
「まあまあ。あとそこ選んだ理由は俺の好みだから」
「あそう。んで、なんで俺も行くの?」
「一人だと寂しいんだ」
「あーはいはい」
特に断る理由もない僕は素直に友人の誘いに乗ることにして、現在に至っている。
長い坂道を登りながら水分補給を怠らないように足を動かしていく。今日の天気は幸い雨ではあるがまだ夏真っ只中。雨のおかげか気温は幾分か下がっているもののその雨で湿度は高くなっており、じめっとした暑さが空気中にただよっていた。体力を奪うには十分で、喉も乾くため適度に水分を取る必要があった。
だがそれも終わりを迎えるようで、目的地である博物館がようやく見えてきた。
館内に入ってまず目にしたのは仏像だった。
木造や石造など種類は様々で、顔の違いも様々ということしか僕には分からなかったが、友人はどうにも落ち着かない様子で展示されている仏像をなめる様に見ていることから、友人には細かい部分まで分かっているようだった。
僕も展示物の横にある説明文を読んで理解しようとしたのだが、どうにもちんぷんかんぷんでそれも飽きてほかの展示物へ行こうとして、いつの間にか友人も物色し終わったのか僕を探しているようだった。ようやく僕を見つけた友人は「次いかないか」と促しながら返事を聞かずに先に行ってしまった。
仕方なく後ろを続くように友人についていき、次の展示物へと歩き出した。
後は友人の気の向くまま館内を歩き回って、刀やら土偶やらを見て友人はいつの間にかもっていたメモにこと細かく記入しており、僕ははたまた説明文を読んで大まかな内容のことを把握してまわっていた。
途中でお腹が空いてきたので、東洋館の横にある食堂に向かったがどれも値段が高すぎて手がつけられなかった。仕方なく他をあたろうとしばらく歩いていると遠くの方に屋台があったのでそこにあった食べ物を買って昼食をすごした。
しばらくして観覧を再開してまだ行ってなかった東洋館へと足を運ぶことにしたのだが、そこも本館と同様に仏像や彫刻などが展示してあって、あまり本館と変わらないようだった。友人は最後まで集中して物色していたが、僕は疲れてしまい近くにあった椅子に座って友人が終わるのを待つことにした。しばらくすると友人が戻ってきくると唐突に「そろそろ帰るか」といってきたので、
「満足したのか?」
と聞いてみた。
「んーまあ、自由研究の資料はだいぶ集まったからな。そろそろ潮時かなと」
「あそう。じゃあ帰るか」
言って椅子から立ち上がり階段を下りて東洋館を出て博物館を後にして、駅へと向かって歩いていった。