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 時刻は昼過ぎ。花菜と楓の二人を乗せた新幹線は、ついに京都駅へと到着した。
「着きましたよ。楓さん」
「ついにですか……。ついに彼らと同じ舞台に……」
「お店の場所も、神社の場所も全て知らべてあるから、後は迷わないだけですな」
「それはフラグだからやめましょう」
 今回二人は、二泊三日の京都旅行に来たのだ。
 
 ことの発端は、約三か月前に遡る。
 
 花菜と楓、そして今回の旅行には参加できなかった美緒の三人は、一冊の雑誌を見ながら、真剣な話し合いをしていた。
「え、どうする? 京都だってよ?」
 花菜の質問に、楓と美緒は互いに顔を見合わせる。
「お金貯めれば行ける、かな?」
「でも、一泊じゃ回り切れないよねコレ」
「なら、二泊三日?」
「それだと、日にち難しくない?」
「でも行きたいよね」
「行きたい」
 その雑誌の記事に書かれているのは、三人が大好きなアイドルグループ『時鳥』の特集記事だった。その内容は、メンバーの五人が、京都のおススメの場所を紹介する、という内容だった。
 記事の事は前から話題になっていたが、詳細を知ったのは今が初めてだった。
 なので、まさかの国内紹介で、三人は戸惑っているのだ。
「夏休み使って行けば、なんとかなる気がする……」
「それだ」
「バイト増やすかー!」
 美緒は、手帳を開きながら小さく呟いて、日程を考えた。
 二人も美緒と同じ様に、手帳を開く。
「七月は?」
「私は空いてるけど、楓確か単独イベあったよね?」
「そう、ですね。はやてくんの単独あります」
「じゃあ、八月?」
「行ける」
「私も行ける」

 こうして、満場一致で八月の京都旅行が決まったのだ。

 新幹線の動きが止まり、他のお客が降り始める。二人もそれに続いて、キャリーケースとカバンを持って降りる。
「とりあえず、どうする?」
「チェックインまで時間あるね。お昼食べてブラブラする?」
「そうだね。そうしよっか」
 新幹線ホームと改札を出て、二人は京都駅周辺を散策することにした。
 夏休みという事もあり、学生や親子連れ、そして外国人観光客も多かった。
 しばらく歩いていると、二人はパスタ屋を見つけ、そこで昼食を取る事にした。

 昼食を取り終えた二人は、チェックインを済ませて一旦部屋で休憩することにした。
「疲れたー!」
「お疲れー。とりあえず無事に着いてよかったね」
「うん。あ、そうだ。美緒に連絡入れないと」
 花菜は、カバンからスマホを取り出し、美緒にメッセージを送った。
「でも、美緒残念だったね」
 楓も、ベッドで横になりながら、同じようにスマホを操作し始めた。
「しょうがないけどね。席空けるの申し訳ないし」
 三人の中で、一番この旅行を楽しみにしていた美緒だったが、別のアイドルのライブに行く後輩が、一緒に行く予定だった相手にドタキャンされ、半泣きで美緒に頼みに来たのだった。
「そんな美緒のためにも、たくさん写真撮らなきゃね」
「でも私、スマホしか持ってないけど?」
「ふふーん」
 花菜は得意げに笑うと、カバンから少しだけ小さなカバンを取り出した。
 その中に入っていたのは、カメラだった。
「おー! 持って来たのね」
「レンズは一つしかないけどね。風景とかはこっちの方がいいかなって」
「さすがカメラ女子」
「ただの趣味だけどね」
 カメラをカバンの中に戻し、花菜もベッドに横になった。
「まだ時間はあるし、ゆっくりしてこっか」
「そうだね。でも、動けなくなる前には移動しよ」

 それから三十分後。たまたま見ていた天気予報が、これから雨が降ると言うので、二人は移動することにした。
「貴船まで、ここからバスだっけ?」
「正確に言うと、電車も使うね」
 スマホで行き方を確認しながら、楓がそう言う。
 二人は、ホテルから一番近くの駅に向かい、電車とバスを乗り継いで、貴船へと向かう。目指すのは貴船神社だ。
 途中のバスの中で、花菜はメモとして持って来た、コピーした雑誌記事を改めてじっくり見る。
「これ、灯篭だよね?」
「どれどれ……。うん、そうだね。階段にあるやつじゃない?」
「だよね。それにしても、ほんとに顔が良いよね。まひる君」
 花菜は、そのページに載っている時鳥のメンバーであり、ファンのまひるの顔を見て、言った。
「この間もドラマ見たけど、横顔とかキレイだよね」
「そう! 横顔がほんとにキレイなの。あのドラマ、横顔たくさん映してくれたから、嬉しかったなぁ」
「いいなぁ。せつな君もドラマ出てくれないかなぁ」
 せつなは、楓がファンをしているメンバーで、他のメンバーよりも多少幼い見た目をしている。
「でも今度舞台の座長でしょ? それも十分すごいじゃん」
「すごいし、見に行くけどさ。でもだからって全公演は見に行けないでしょ? 私が行かなかった公演で、爆弾落とされてるのは事実だし」
「あー。それがあるね、確かに」
「はやて君は写真集出すし、双子君たちはバラエティーによく出るようになったし」
「ほんと、大きくなったよね……」
 花菜は目元を擦る。
「え、泣いてる?」
「しみじみしてる」
 二人を乗せたバスは、最寄りのバス停へと到着した。
「ここからは、徒歩です」
「山道上るのか……」
 最初の方は、バスの中と同様にしゃべっていた二人だが、上って行くにつれて口数が減っていった。
 歩くこと五分。ついに貴船神社の入口に到着した。
「立派だねぇ」
「雰囲気もステキだし」
 二人は、鳥居の前で一礼して階段を上って行った。それからお参りを済ませ、名物だという水みくじをやった。
「末吉かー。楓は?」
「私も末吉」
 近くに設置されている、結び場所におみくじを結び、二人は境内を後にした。
「写真撮る?」
「とりあえず、ここかなって場所と入口からは撮りたい」
「了解」
 花菜は楓に記事を渡して、カバンからカメラを取り出した。
「この、右端に木があるから……」
 楓は、写真を見ながら階段を降りて行く。その後ろを、花菜は時折写真を撮りながら、着いて行く。
「ここら辺じゃない?」
 楓が向いている方を見ると、灯篭の位置とその後ろの風景も、確かに似ていた。
「じゃあ、ここでいいか」
 花菜は、人が通り過ぎるのを待ってから、カメラを構える。
 趣味でやっているだけ、と言っていた通り、上級者的な撮り方はできない。そのため、設定も初期のままだ。
 なんとか撮り終えたところで、二人は階段を降りて鳥居を出る。そしてもう一度一礼してから、さっきのバス停へと歩き始めた。
「とりあえず雨降らなくてよかったね」
「うん。写真も撮れたし、満足です」
 楓も、いつの間にかスマホで撮っていた写真を、グループのメッセージに飛ばした。
 帰りは下り坂だったので、行きよりも楽に帰る事ができた。
 しかし、バスを待っていたその時。
「あっ」
「どうかした?」
「今、雨当たった気がする」
「えー、全然当たらない、けど……ほんとだ」
 楓は、自分の頬に濡れた雨を拭う。
 そして、急いでカバンから折り畳みの傘を取り出した。
「いやー、当たったね。天気予報」
「どうせなら、晴れを当ててほしかった」
 花菜は空を見上げながらそうボヤく。カメラはバス停に着いたときにしまったので、雨に濡れずにはすんだ。
 それからバスが来たのは、五分ぐらい後だった。

 ホテル周辺まで戻った二人は、アーケード街へと向かった。
「なんか、見慣れた光景すぎて」
「ほんとね。京都じゃないみたい」
 ふらふら歩いていると、オムライス屋さんを見つけた。
「ここにしよっか」
「さんせーい」
 そのお店でのんびりと夕飯を済まして、二人はもう少しだけアーケード街を見て周る異にした。
「あ、ほら見慣れたお店」
 楓が指差した先にあったのは、二人がよく行くCDやグッズを取り扱っている店だった。
「京都限定とかあったっけ?」
「いや、なかった気がする」
「じゃあいいや」
 そうして店を通りすぎた二人は、途中でデザートを買い、ホテルへと歩いて帰った。

 二日目。今日は少し遠い場所まで行くため、二人は早起きをした。
 朝食と身支度を済ませて、二人は昨日と同じ様に電車に乗った。
 今日向かうのは、宇治方面だ。何軒かのお店を、メンバー一人一人が紹介しているので、そこに向かう。
「ここは、はやて君が紹介してるから、しっかりと写真に収めないとね」
「うん。にしても抹茶なんて、はやて君らしいね」
「分かる。似合うよねー。なんか、着物着て茶室にいてほしい」
「それはさすがに、私でも惚れる」
 駅から目的の店まで向かう途中、そんな事を話していると、二人のスマホが鳴った。
「あ、美緒からだ。写真ありがとー、だって」
「今からあなたの推しの所行きますよ。って送ろ」
 楓が送信してすぐに、美緒から返信が来た。
「魂と念を送るので、私の幻覚が見れるかもしれません。だって」
「ないない」
 そんなやり取りをしていると、目的の店に着いた。
 ここは、抹茶ラテの専門店で、甘いのから苦いのまで、自分の好みにあった抹茶ラテが飲める。
「混んでるね……」
「この中に、私たちと同じ目的の人は、何人いるのか……」
 とりあえず店内に入り、レジへと並ぶ。
「どれくらい苦いと思う?」
「どうだろ。でも、色的には苦くなさそうだけど」
「じゃあ、普通のでいいかな」
「私も同じのにする」
 やがて自分たちの番になり、二人はそれぞれ会計を済ませて、店内から出た。
「どこか座れる場所とかあるかな?」
「うーん。今日もなんだか雨降りそうだしね。ちょっと調べてみる」
 楓が調べている間に、花菜は次の目的地を確認するべく、雑誌記事を取り出す。
「あ、近くに公民館みたいな場所があるって」
「そこ行こうか」
 その公民館は、駅の近くにあった。エレベーターで三階に上り、飲食スペースへと向かう。
 中に入ると、外はまだ暑いためか、冷房が効いていた。
 空いている椅子に座り、買った物をテーブルに乗せる。
「可愛いよね」
「うん。これが俗にいう、映えるってやつですか」
「かもしれませんね」
 抹茶ラテを写真に収め、二人は一口飲む。
「おお。苦くない」
「飲みやすいし、美味しいわこれ」
「これなら飲めるかも」
 それから二人は、抹茶ラテを飲みながら、時鳥の今後の活動や、自分たちが参戦するライブやイベントの話で盛り上がった。

「ここが鴨川かー」
 時刻は夕方。宇治を後にした二人は、今度は鴨川の周辺にやって来た。
 ここはせつなが紹介していた場所であり、かつ時鳥にとって大切な場所でもあった。
「ここでMV撮影したんだね」
「懐かしいなぁ。私今でも見るよ」
「まだ踊りとか、そこまで派手じゃない頃のだよね。ほんと懐かしい」
 写真を撮りながら、花菜はそう言う。
「でも、せつな君がここを紹介するなんてちょっと意外かも」
「ここは、MVの撮影地ってのもあるし、せつな君自体がよくここに散歩とか、遊びに来てた場所なんだって」
「あー、なるほど。思い出の場所ってことね」
「そうそう。あ、同じ場所で写真撮って!」
「まかせて」
 二人は、雑誌記事を見ながら、同じ場所を探す。しかし、どんなに探しても載っている場所は見当たらなかった。
「おかしいな。ここのはずなんだけど……」
「あ、ちょっと待って」
 楓は、雑誌記事をもう一度よく確認した。
「これ反対側じゃない? あの建物が後ろにあるよ」
 花菜は、楓が指差す建物と、写真をよく確認する。
「ほんとだ。向こう側から撮ってるね」
「よし、行こう」
 二人は、橋を渡って、なんとか同じ場所で写真を撮る事ができた。
「任務完了!」
「そろそろ戻ろっか」
「そうだね。あーあ。もう明日帰るのか」
「あっという間だったね」
「でも、すっごい楽しかった。今度は三人で来ようね」
「うん」
 二人は、ホテルに帰るまでの途中で、夕飯を済ませて二日目を終えた。

 三日目。お昼過ぎには新幹線に乗らなければいけないため、駅のロッカーにキャリーケースを入れ、残りはその周辺で済ます事にした。
「どこか行きたい場所ある?」
「うーん、この辺は特にないかな。あ、近くにあるお寺行く?」
「そうしよっか」
 二人はバスに乗り、駅の反対側にある東寺へと向かった。
「お寺とか久しぶりに行くな」
「神社はよく行くけどね」
「そうそう」
 東寺に着くと、賽銭を済ませて中を散策した。
「あ、仏様公開されてないんだ」
 閉まっている扉を見て、花菜はそう言った。
「確か、時期とか時間とか決まってるんだっけ」
「そんな気がする。あ、お土産売ってるよ」
 二人はお土産屋に入り、美緒へのお土産を探す。
「やっぱり八つ橋かな」
「京都と言ったら、そうだよね。じゃあこれにしよ」
 会計を済ませ、時間もいい頃あいだからと、駅へと向かうことにした。
「乗る前に、何か食べて行く?」
「軽く摘まめるものがいいね。京都タワーの下にあるかな」
「フードコート的な? あるんじゃない」
 京都タワーに着くと、狙った通り、地下にフードコートを見つけた。
 そこで、軽い食事を済ませた二人は、駅に戻ってロッカーから、キャリーケースを取り出し、新幹線ホームへと向かった。
「最後に写真撮ろうよ」
「ちょっと待ってね……。はい、チーズ」
 あまり撮りなれない自撮りを見て、二人は思わず笑ってしまった。
「撮りなおす? これ」
「いいよ、いいよ。逆に面白い」
「じゃあ、後で送るね。あ、新幹線来たよ」
 キャリーケースを引いて、車両の中へと入る。
 チケットに書かれている座席に座り、二人は一息吐く。
「楽しかったね」
「うん。今度は違う場所に行きたいね」
「全部の聖地巡礼する?」
「それをするなら、お金貯めないと」
 そんな話をしながら、花菜は美緒に帰る連絡を入れた。