――――襲撃を実行したのはそれから一週間したときのことだった。襲撃するのはシュトラフ、フェイ、カノンを含めた十数名。その全員がマスケット銃やナイフなどの装備している。
豪邸の従者も寝たであろう時間を見計らい、シュトラフは慣れた様子で敷地内に侵入した。
「準備ができるまでは慎重に行う。それからは適当で構わない。ただ【慧来具】があるらしいからそれだけは絶対確保だ。いいな?」
「了解っす」「了解です」
部下の返事を聞いたシュトラフはカノンの方を向くと、邪悪な表情を浮かべ断言した。
「壁とかぶっ壊せるだろ。壊せるだけ壊していいからな」
カノンは一瞬ばかり驚いて蒼い目を大きく開いてまじまじとシュトラフを見詰めた。普段抑揚の無い声で無表情かドヤ顔しかしないので、突然見詰められたシュトラフはついつい視線を逸らす。その様子を見てカノンは勝ち誇った様子で返事をした。
「了解致しました。建物が倒壊しない程度に自重したうえで破壊作戦に移行させて頂きます。あとこれで13勝2敗です」
「……っち。まだカウントしてるのか」
「カウントはシュトラフ様もしているではありませんか」
「カウントしねえと大切なことじゃないから忘れたんですね。とか言ってくるじゃねえか。あーストレス溜まるわー。お子様がいると大変だぜ」
「ストレスが溜まっているのであれば破壊はいいですよ。これまで溜まってきた鬱憤を物にぶつけることでスッキリ致しますので。……レモンはレモネードにするよりその苦みを他にぶつけるのが一番楽でいいです」
「……例えが意味不明過ぎて何を言ってんのかよく分からねえが、侵入するぜ」
銃の【慧来具】……【多機能拳銃-FE-36】を取り出すと、銀色の引き金を引き、銃口から出る灼熱の炎で窓を熱し焼き割った。屋敷内部までの侵入経路、及び退路をスムーズに確保するとシュトラフは両腕を掲げ命じた。
「お前ら! 略奪の時間だ! 奪えるものは奪え! そのあとは玄関からベッドルームまで全部ぶっ壊せ! 荘厳な雰囲気も、貫禄も、美しさも、築き上げた幸福も全てだ! 残すのは生きるのに必要最低限な金だけでいい!」
シュトラフの声が屋敷に響いた直後、ガチャリと重厚な金属音が鳴り、カノンの両腕が展開した。人間であれば骨に該当するであろう鋼色の金属棒がスライドし突き出る。何が起きるかを想定し誰よりも早く危険を察知できたのは、すぐそばにいたシュトラフだけだった。
「耳塞げ! 思ってた以上にカノンのやつやばい機能持ってた!!」
カノンの両腕から突き出た金属の棒は言うなれば銃身だった。先端にはFE-36に似た形状の、しかしあまりにも巨大な口径をした銃口が見えている。腕全体が一つの銃身へと成り代わったのだ。
「破壊はいいです。特に派手になにかをやらかすのは素敵です。対象は窓と壁。――――発射(フォイエル)!」
刹那、カノンの腕の先にある銃口から、目を開けるのも苦痛なほど刺激的な閃光が走った。銃弾が一瞬にして何十発も放たれる地響きのような爆発音が屋敷全体に轟き揺らした。耳を抑え、屈まずにはいられないほどの衝撃のなか、シュトラフはハッキリと一連の破壊を見届けてみせた。弾丸一発がマスケット銃などとは比較にならない破壊力を持ち、窓はもちろん頑強なレンガの壁でさえ一瞬にして粉々にしていた。
圧倒的パワーによって一旦の破壊行動が終わったとき、さきほどまで壁だった瓦礫が積み重なり、砂埃と煙が漂った。轟音は一瞬にして静寂に変わった。壊れた壁から月明かりが入り込みカノンを照らし、小さな風が涼しさを運び埃を払い、白銀の髪とシッポをなびかせている。
なんだあの力は。あの可憐な姿のどこに隠していたのだ。轟く恐怖の音。大砲にも張り合えるほどの力。しかし美しい。強さと華麗な姿が両立している。正直言って憎いくらいに恰好良かった。
「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオ! 凄え! 凄えよ! こんなの初めて見たぜ!!」
シュトラフは興奮を抑えきれずに感嘆の声をあげた。
「当然です。ワタシに搭載された武器はレンガ程度たやすく砕きますよ――――発射(フォイエル)!」
カノンは再び発砲した。轟音が響き渡り、弾丸が爆ぜると、銃口の先にある物を全て粉微塵に砕き、破壊していく。シュトラフはその圧倒的破壊の音に張り合うかのごとく大声を上げた。
「お前ら! 負けてられねーぞ! 奪え! 壊せ!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
さらに白熱した盗賊達は雄叫びを上げた。すると銃やシュトラフ達の荒らしい叫び声を聞き付けて屋敷の主や使用人が一階まで慌てて下りてきた。
「おい! いったい何の騒ぎ…………だ」
が、彼らの抵抗の意思は一瞬にして消え去った。廊下に広がる瓦礫の山。外と内の境界線も曖昧になってしまった惨状をまのあたりにし、抵抗しない事が唯一最善の手段であると理解したのか。もしくは唖然として、思考を放棄しただけか。ともかく家主フリードリヒとその使用人達はいつも以上に熱気とやる気に満ちた盗賊を、ただ黙って見ることしか出来なかった。